東洋の心身セルフコントロール

調身と調息の実践法で身心をセルフーコントロール

「肚」のありかを体得することは、なかなかに難しいことですが、調身と調息を深めることにより『肚』のありかや意味を体得する手がかりになります。

東洋の呼主吸従の呼吸法

呼吸法には、胸式呼吸と腹式呼吸があるとされていますが、一般にいわれる腹式呼吸とは、実は、横隔膜呼吸を意味しています。kintando16

われわれ人間は、生来、横隔膜呼吸が呼吸量の60~70%を占め、幼時には、これが胸式呼吸よりも優位になっています。

ところが、一般に成長するにつれて、胸式呼吸が腹式呼吸よりも優位になってきます。

現代のストレス社会では、肩で息をする胸式に偏った呼吸をする人がますます増えてきております。

次に、東洋流の呼吸法の特徴として、呼主吸従の呼吸が、身心セルフーコントロールの軸となっております。

西洋流の呼吸法では、両手を広げ、胸を開いて行う吸主呼従の呼吸法が主体となっています。

ところが、酸素をより多く吸い込もうとする西洋式の呼吸よりも、東洋式の呼いて呼いて呼ききった後で、自動的に起こる吸気の方が、酸素の摂取量がより多くなるだけではなく、身心のセルフーコントロールを促す働きを持つことが、つとに、わが国では実証されております。

丹田呼吸の研究で有名な村木弘昌医学博士は、このような東洋的な呼吸法の代表として「釈尊の呼吸法」をあげておられます。

座禅、ヨーガ、気功法など、東洋的な身心セルフーコントロール法では、このタイプの呼吸法が一般的です。

さらに中国で、「息長ければ命長し」といわれるように、謡曲、義太夫など、長呼息が軸となる趣味を持っている人たちは、長寿に恵まれる傾向が認められます。

ベンソンのリラックス法

西洋でも、近年、東洋の英知を取り入れる動きが活発化してきており、アメリカのドクター・H・ベンソンは、チベットに渡って、ヨーガの瞑想についての心理生理的な研究を通して、「東洋的な瞑想の鍵は長呼気にある」ことを見い出し、長い呼気をすることによって、人体の交感神経の緊張が下がることを、生理学的に実証しております。

交感神経は、自律神経系の中で、心身のストレスに鋭敏に反応する神経系であり、ストレスによって起こる動悸、過呼吸、血圧上昇などは、これによるものとされています。

そこで、ベンソンは、本態性高血圧症(血管や腎臓の障害を伴わず、心身の緊張が大きく関係する)などの治療法として、独特の「呼吸によるリラックス法」を考案しました。

これは、早期の本態性高血圧症などの患者を、楽な椅子に座らせて長呼気をさせ、一回息を呼くごとに、「One」という言葉を繰り返させるものです。

さらに、この訓練中に、頭にいろいろな雑念が浮かんできても、それらを追っかけようとも打ち消そうともせず、浮かぶがままに受け流す調心の法を加えます。

彼の独自のリラックス法は、アメリカの厚生省によって、薬によらない血圧降下法として、正式に認可されております。

また、彼はこの功績によって、ハーバード大学の行動医学(健康の医学)科の教授に任ぜられ、アメリカーの東洋通と称されています。

丹田呼吸の要領

胸腹式の丹田呼吸では、調身を身につけるのには、背すじを伸ばして腰を立て、下腹筋を締めた上で、丹田から頭頂にある百会(ツボ)に向かって吸い上げるような感じで、同時に、胸を開き、背中の肩胛骨をぐっと広げ、丹田をふまえた吸気を行なう。

次いで、口から細く長い呼気を、丹田への下降を意識しながら行うことが望ましいようです。

柳田式作図法による丹田は、深息法を行った時に、力を感じるところを、力を感じる方向に線で結ぶことによってできたものであるとされており、柳田式の丹田は、呼吸法のポイントにもなることを、示唆しております。

このような呼吸法によって、姿勢を調えれば、自ら上虚下実(上半身がほぐれて下半身が充実する)の姿勢となりましょう。

さらに、「剣と禅」で有名な大森曹玄老師は、丹田を中心とするこの種の全身呼吸を通して、全身各部にわたる小さな動きについて、次のように語っています。

「肚に集約された求心力が強ければ強いほど、そこから適正かつ臨機応変に遠心力を発動させることができ、これが剣の極意にも通じる」