漢方医学では熱に対しては“熱が下がる”ように、鼻水や咳が出ていれば“鼻水や咳が出なくなる”ようにします。
一方、現代医学は“熱を下げる”“鼻水や咳を止める”というのが特徴です。
症状を止めることと症状が取れるようにすることの違い
漢方医学ではカゼという体のバランス(ホメオスタシス)の乱れや免疫力の低下を回復することで熱が下がるように、あるいは鼻水や咳が出なくなるようにするわけです。
よくカゼは薬を飲んでも一週間、飲まなくても一週間といいますが、症状を抑えるだけの治療でしたら、症状が止まってもカゼという体の乱れは残っているわけですから、体調が調う一週間は待たなくてはならないということになります。
しかし漢方薬の効能は漢方の処方が適切であれば、一服でカゼは改善します。
こじらせないですみます。非常に早く治るわけです。
またカゼで下痢をすることがあります。これも急性症です。
下痢で病院にいくと、一般に下痢止めの薬が渡されます。
カゼといっても検査のしようがなく、下痢止めで“下痢を止める”ことをするわけですが、カゼは治りません。
漢方医学では脈を見てカゼであるかどうかがわかります。
下痢という症状があってもカゼの漢方薬を服用することでカゼを治し、そして“下痢が止まる”ようにするわけです。
現代医療の治療法は対症療法とよくいわれますが、手術にしても処置であることを忘れないようにしたいものです。
事例1.47歳の男性の場合
昼すぎごろから息苦しくなり動悸が激しくなって、体の節々が痛みだしました。
これは大変と近くの病院に自転車で駆け込んだのですが、そのためにさらに動悸も激しくなったようで、診察の結果、これは重症の心臓病かもしれないのですぐに入院してくれといいわたされてしまいました。
そして、入院するのはこまるということから、つきそっていた奥さんに脈を見させました。
少し脈に触れただけでピンと緊張したように脈が触れるかどうかです。
すると案の定、そのような脈でした。
これはカゼということで、近所の薬局から麻黄湯というカゼによく用いる漢方薬を求め、服用して一時間後にはすっかり落ち着き、あくる日には正常にもどっていました。
事例2.カゼがこじれて慢性化に傾いた例
50歳代の女性で、中肉中背の人ですが、カゼをひいて新薬のカゼ薬を飲みました。
カゼの症状事体は止まったので、つい無理をし、そのためにカゼそのものは治るどころか、こじれる一方、体はだるく、息切れがし、咳が出るうえ、食欲もなくなってしまいました。
いろいろ治療を受けたのですが、ますます衰弱の様相を示すばかりでした。
そこで、一般にこのような症状を訴えてきた場合には漢方では虚証とみなし、体に体力をつける補剤を用いることが多いのですが、腹診すると肝臓に負担がかかり、胆熱から心熱をもった状態でした。
そこで大柴胡湯という漢方薬を投与しました。
服用して数時間後には楽になり、三日後にはすっかり回復しました。
この大柴胡湯という処方は、漢方の能書では、体ががっしりして、普段元気な実証の赤ら顔の重役タイプに用いるということで、このような虚証に見える人にはまず用いないといってよいでしょう。
それは単に漢方の病理機構を十分に把握していない能書きに頼った用い方をしているため、能書き以外の病症に対しては用いることができないことから、応用ができないことだけのことなのです。
漢方薬は一般に効き目が遅いというのが通説のようですが、処方の選び方で現代医薬よりも早く改善するわけです。
現代医薬はつらい症状を抑えるのが一般的で、それはあくまでも“処置”であるということです。
このあたりを誤解している人がずいぶん多くいます。