東洋医学は、単なる机上の論理ではなく、人を安全と安心のある生活、つまり、健康でやすらかな暮らしへと導くための実学です。
この東洋医学の基本にある「陰陽論」の考え方は難しいものではありません。
それは、誰にでも日々の生活の中で実感することができて、さらに誰とでも共感できる、すっきりとしたシンプルな考え方であるとも言えます。
あなたはゆうべ何時に眠りましたか?一日の終わりは一日の始まり
あなたの一日の始まりの時間は東洋医学では日没時ということになっています。
電気もなかった昔では太陽が沈んで暗くなれば眠るのが当たり前だったのです。
しかし、現代ではどこにでも電灯という仮の太陽が煌々と照っており、夜になっても昼間と同じ状態が持続しています。
「陰陽論」では、「陰」が夜、「陽」が昼をそれぞれ示していますから、現代は「陽」の時間がどんどん延長しているということになります。
いくら健康な状態を保つために良いからといって、この現代において日没と共に休むということは不可能です。
ですから、現代は、現代の生活サイクルにある程度見合っていて、しかも健康を維持できる就寝時針を、夜の10時(亥の刻)として、それを最終の就寝時刻とし、一日の始まりであるとして合わせる必要があります。
さて、あなたは一日の始まりは何時からだと思いますか
深夜零時、日の出時刻、目覚めた時、朝食時間、ラジオ体操の曲が流れた時……等々、色々な考え方があるでしょう。
では、東洋医学の立場から、つまり「健体康心」を維持する暮らしを送るためには、一日のスタートを何時に設定すればよいのでしょうか。
「寝る子は育つ」という諺もありますが、人が健康で快適な生活を営むためにはまず「眠り」の時間がある程度確保されなくてはなりません。
若さや体力のある人は平気で徹夜もするでしょう。
しかしその徹夜明けの気分はさわやかなものと感じられるでしょうか。
そしてその一日をすこやかに過ごすことができるでしょうか。
人の生活は「眠り」によって支えられているといっても過言ではありません。
眠りはその日一日の疲れを癒すためにあると同時に、次の日を元気に活動するために最初に用意された時間でもあるのです。
ですから、その日の仕事を全部終えてゆっくりと床につく時、それが一日の終わりであり、一日の始まりなのです。
陰・陽のリズムで生きる!亥の刻の不思議
ガンや心臓病といった重病難病の患者さんにそれまでの生活時間を尋ねてみると、ほとんどの方が深夜12時を回ってから休んでいた、と言われます。
就寝時間が連日深夜を過ぎていては、身体が熟睡できない生活が続き、芯が疲労し、やがて病気になるのは当然です。
先に、適当な就寝時間は亥の刻であると言いましたが、東洋医学ではこの時刻は最終の陰のエネルギーを持っている時間帯と考えます。
このエネルギーは眠っている間に育まれ、蓄えられ、目覚めた後の陽の時間をつつがなく過ごすための燃料になるのです。
ですから、就寝時間が遅く、睡眠時間が少ないということは、自分で自分のエネルギーを減らしてしまっていることに他なりません。
それで、ガソリンの切れた車が動けなくなってしまうように、人も病魔に襲われ病院ベッドの生活を余儀なくされてしまうというわけです。
やることが多くて夜の10時に寝ることなどとてもできない、という若い人は陽気の時間帯である鶏鳴(午前二時半)以後に起き出して、「早起きは三文の得」とばかりに、早朝に仕事を片づけるようにしてみるのも一案です。
また、夜の10時に寝てはみてもどうも早く目が覚めてしまう、という年配の方は、目覚めれば起き、そしてまた眠くなったら寝る、というふうにおおらかに構えていればよいでしょう。
眠る、起きる、眠る、起きる……という繰り返しは、陰、陽、陰、陽というリズムとなって、「陰陽論」の理論にもかなっています。
「昼間は起きていなくてはいけない、夜は眠らなくてはいけない」などという狭い考えにとらわれずに、年を取れば赤ちゃん返りをしたと思って、寝たり起きたり、自分の体にあわせて気楽に過ごして行けばよいのです。
眠りは人間の管理下にありません。天の司る処となっていますから、眠りは天にまかせて下さい。