たくさんの英文字の腫瘍マーカーのうち、CEAについての実例です。
CEAはたくさんある腫瘍マーカーのなかでもっとも多くの種類のガンに関係していて、胃ガン、大腸ガン、膵臓ガン、胆嚢ガン、肺ガンを反映します。
都内のある会社での実例の紹介です。
その会社では、約500人の社員が、毎年、CEAをチェックしています。
ある年の検査でCEAが12.9と異常高値の人がいました。
CEAの正常値は2.5以下ですから、12.9というのは相当高い値です。
その人の前年度のCEAが2.1でしたので、前年度に比べ急に上昇しています。
「これは何かあるぞ」
体のなかにガン性の異変が起こったからCEAが高くなったのに相違ありません。
まず、便の検査を行ったところ、便潜血陽性でした。
つまり便のなかに血液が潜んでいたのです。
「ははーん、大腸ガンだったのかな」と思い、注腸造影を行いました。
ところが、意外なことに大腸に異常はありません。
便潜血陽性の原因はただの痔だったのです。
その年の検診の他の検査の結果はすべて「異常なし」と記載されていました。
胸部レントゲンの結果も「異常なし」と書かれています。
膵臓か胆嚢に異常があるのかと思いましたが、なんとなく気になるので、もう一度胸部レントゲンを撮ってみました。
「異常なし」と判定された検診のときは小さなレントゲン写真(間接撮影)だったのですが、今度は普通のレントゲン写真(直接撮影)です。
するとどうでしょう。
右の肺の下部に、肺ガンらしき影が写っているのです。
CTで確認したところ、やはり肺ガンでした。
転移がないほど小さかったので手術で取り切ることができました。
それから3年たちましたが、その方はまだ健在です。
腫瘍マーカーの一つであるCEAを調べることにより、検診での通常の間接X線写真(胸部)で見逃してしまった肺ガンを見つけることができたおかげなのです。
腫瘍マーカー 検査をせずに手遅れになってしまった人
臨床経過は、ある県の地方銀行員として、大病することもなく生活し、平成○年3月定年退職した。
同年5月ごろより食欲不振、体重減少が1ヵ月に3キロを認め、6月10日には背部痛が出現したため同月13日、慶応病院を受診した。
胃透視、超音波検査の申し込みと採血を行い、鎮痛剤を処方され帰宅した。
同月27日に再来したところ、腫瘍マーカーの異常高値(CA19-9=16700)を指摘され、7月10日入院し精密検査を行ったところ膵臓ガンであることが判明した。
肝臓に転移していたため手術することはできず、疼痛治療のみ行っていたが、10月末より全身状態が悪化し、11月13日死亡した。
実は、この人は退職する3ヵ月前に人間ドックを受診し、超音波検査も施行していたのです。
ところが、「異常なし」と判定されていました。
経過から判断すると、当然、その時点で膵臓ガンは芽生えていたに違いありません。
しかし膵臓ガンは画像検査の盲点です。
超音波検査を行っても、よほど優れた技術の持ち主でないかぎり、2~3センチほどの小さいガンは発見できないことが多いのです。
この人の場合も、やはり見逃されてしまっていたのです。
では、人間ドックを受けた時点で腫瘍マーカーの一つであるCA19-9を調べていたら、どうなっていたでしょうか。
ガン細胞が芽生えて、すぐに腫瘍マーカーが上昇し始めるかどうかは、ケースにより異なります。
目に見えないぐらいの小さなガンでも、腫瘍マーカーが上昇することもありますし、かなり大きくなるまで上昇しないこともあります。
今となっては正確な数値はつかめませんが、この人の場合は、ドックの時点ですでにCA19-9が高値を示していた可能性が高いでしょう。
もし、ドックのときに腫瘍マーカーを調べていたら、膵臓ガンと診断され、手術で取り切ることができたかもしれません。
そうなると5年後の生存率が16~17パーセントほどあったのです。
座して死を待つのではなく、生き延びていく可能性のある治療を施せたことでしょう。