昔から、剣道、弓道、柔道などをはじめ、さまざまな武道や芸道(茶の湯、生け花、日本舞踊など)の修練でも、上虚下実の構えが特に重視され、これらは、単なる武術や稽古事、遊びではなく「道」に至るための方便ともされてきております。

これらの武道や芸道の最終のねらいも、現代医学の立場から考えますと、正しい姿勢、正しい呼吸、正しい動作を通し、身体の末梢からの働きかけによって、中枢神経系(脳)の機能をととのえ、脳波を安定させるところにあったといえそうです。

丹田とは

わが国では、昔から、肚とか臍下丹田という言葉が、よく使われていたにもかかわらず、丹田の位置については、ほとんどの人が、あいまいな考えしかもっていません。

これを、人間工学的に、心身のバランスをとる人間の心身の統一点と理解し、ヨーガの丹田の説明に基づいて図解すると、右図のようになります。tanden-bushou

丹田の位置は、恥骨と臍を結ぶ直線の真ん中の中央で、ちょうど、仙骨と腰椎の接骨部から腹部前方に引いた線の中心点とされています。

つぎに、丹田の位置を、頭から見おろした位置で示しますと、座禅した場合、両膝と背骨によってできる三角形の、ちょうど中点にあたるところに重心を落としますと、肚が安定した状態になりやすいわけです。

一般人では、特に座った場合には、体の重心が背骨にかかりますので、背骨に負担がかかり、それを長年続けて、中年以後になると、腰部の障害をおこしやすくなるわけです。

頭寒足熱上虚下実の構え

丹田の力が強まると、自然に下半身に力がこもり、上半身の力みがとれて、頭が平静になり、心身が安定して、頭寒足熱上虚下実の構えになりやすくなります。

そうなりますと、日常生活のすべての思考と動作が、脳の働きと丹田力との調和を高めるように行われるようになり、生活そのものを、「動く禅」にまで進展させる可能性も生まれてきます。

同時に、手だけ、または足だけで動くのではなく、丹田を中心にして、全身が、それらの個々の動作に協力するような統一体としての動きになることこそが、人間としての最も自然な動作であることが、体験を通して会得されてきます。

臍下丹田に心と体を安定させるには、腰骨を立て、下腹をしめる。

笠松章・平井富雄両先生による座禅時の脳波の研究で、調身、調息によって、「禅定」とよばれている一種の統一状態になると最も安定して調和のとれた脳の働きに達しうるということです。

座禅のさいの調身によって、上虚下実といわれるように、正しい姿勢を保持するための背中の筋肉、両手の筋肉以外の上半身のすべての筋肉の緊張はすっかりほぐれ、下半身、特に臍下丹田に力がこもった姿勢になり、調息は、このような丹田力を深めるものとなります。

現代医学の中で、脳の研究が進歩するにつれて、人間の精神作用の中で果たす脳の役割の大きさに注目するあまり、心の働きは、脳ばかりではなく、全身で営まれること、いいかえれば、心身は一如であることを忘れて、心の問題の解決には、脳の働きだけに頼ろうとする偏見に陥っているのではないでしょうか。

これに対して、東洋では、人間の全人的な営みの中心となる「肚」(丹田)に注目し、頭脳のコントロールにおける「腹脳」の役割をも重んじていたものと思われます。